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330 通知表の話 ~後編~

330 通知表の話 ~後編~

こちらも具体例で述べていきます。ただ、少し事例が古くなりますのでその点はご了承下さい。

1970年代に『横浜国立大学鎌倉中学校内申書事件』という事件があったそうです。横浜国立大学鎌倉中学校は当時神奈川県下で一番の進学校である神奈川県立湘南高等学校へ毎年50~60名もの合格者を出しており、県立湘南への登竜門として知られ、多くの優秀な生徒が集まりました。しかし一般の公立中学校より突出して多い合格者数に対して世間や行政から言われなき批判が高まりました。そして批判の矛先は横国大鎌倉中学校の採用していた絶対評価に集まったそうです。そのシステムを改め、当時の主流であった相対評価に切り替えるよう行政圧力がかかったそうです。

しかし、中学受験のある横国大鎌倉中学校では学力上位層ばかりが集まっています。千葉県でいう『千葉大学教育学部附属中学校』のような位置付けです。従って相対評価による内申評価では公立中学校と較べて大きなハンディを負うことは明らかです。実際に模擬試験などで満点に近い点数を取っても評価が『1』となったケースも急増したそうです。

この結果、横国大鎌倉中学校から実力相応の公立高校へ進学することは困難となり県立湘南への進学者も激減しました。県立湘南高校側から見れば横国大鎌倉中学校から入学した優秀な生徒が東大合格者数などの進路実績を支えてきた事情もありました。これが叶わなくなったことによる公立高校の地盤沈下は顕著でした。

1970~74年の『5年間東大合格者数』は平均で70.6名。これは全国で10位、神奈川県内ではトップでした。因みに神奈川県内2位は栄光学園で51.0名、全国では12位でした。『平均して20名の差』は相当大きなものと言えます。

これが事件後の1985年~89年では平均26.6名。全国19位、神奈川県内では3位でした。これ以降の時代ではベスト20から陥落し続けています。

これらを考えていくと『絶対評価と相対評価はどちらが優れている』という議論は無意味にも思えます。しかし、何らかの物差しを用いなければ受験制度そのものが成り立たない矛盾も感じます。そうなれば『当日の学力試験一発勝負』という極論(県立千葉で採用していますが)も出かねない。それは中学校教育の否定にも繋がりかねないことではないでしょうか。

そして私が、LS WILLが今すべきことは『現行制度の中で生徒さんが望む未来をどのように切り拓けるか、そしていかに効果的な手助けが出来るか』です。システムについての議論は他に任せますが、現状ではどの方法がベストなのかを生徒さんに伝え続けたいと思っています。