前2章において『勉強する能力がない生徒さんはいない』と考える論拠について述べてきました。本章は『なぜそこまで?』という疑問をお持ちの方に対して私がこれまで耳目にした事例を連ねていきたいと思います。
まず一番の理由です。昨今は『勉強ができない=いじめの対象』となってしまうことが非常に多く見られるからです。これは本当に切実な問題です。教室としてお預かりした生徒さんがこのような目に遭ってきたことを広く知って欲しいという思いです。
勉強ができず、宿題も分からない。結果として提出すべきものが提出できずに学校の先生から注意を受けた。それを見たクラスメイトが次第にいじめの対象としてその生徒さんを見るようになった。さらにそれがエスカレートし、暴力を含めたいじめとなり・・・
このケース、端緒となった学校の対応が間違えていないかどうかはこの際議論致しません。ただ、いじめが顕在化した時点での対応はどうだったかと疑問は残ります。その上で学校の先生が勉強が解らないことを放っておいた部分も大きな原因だったのではないかと思います。
昨今の教育審議会答申でも学習の遅れている一部の生徒は個別対応せずに学習塾通塾を勧めるように答申が出ています。ウ~ン… 学習塾運営者としては朗報なのですが、何となく飲み込みにくい感じがするのは私だけでしょうか。もちろん学校の先生方がお忙しいことは承知しています。それなら学校と塾の連携がもっとできるような体制も考えて頂く必要があると思います。
その生徒さん、縁あって私の運営する教室で預かり、無事に高校進学し、今は大好きな部活動で充実した高校生活を送っています。その生徒さん、入塾の際に私からきついことを言われたと今でも言っているようですが・・・ 『いじめられている原因が勉強の不振ならそれをはねのけるだけの勉強をしなさい。材料はいくらでも与える!解らないを持ち帰らずにきちんと解決してから帰宅しなさい!』その生徒さんは『あの一言で生まれ変われたよ』と最近白状してくれました。
もう一つのケース、これは進路指導に関わるものでした。以前『勉強できない生徒の進路指導はしない』と公言してはばからない先生がいらっしゃいました。建前で言う分には生徒さんのやる気を喚起しようと読み取れなくもないのですが、それを実践していらっしゃったのはビックリしました。
このケースは簡単です。私立高校については塾から根回しして内諾を得る、公立高校には政治力を使って内申書だけ書かせ出願作戦については塾で万全を期して取り仕切る、これだけです。担任の先生が『進路指導をして下さらない』ことに対するデメリットを最小限にしました。しかし生徒さんの心に大きな傷を残す可能性があり、それが大きな課題となりました。
受験は言い換えれば母校を旅立つ準備です。卒業までの時間を少しでも笑顔に満ちた時間にしたいと思うのは自然な気持ちだと思うのです。そんな時に生徒さんと担任の先生が対立し合うようなこと、避けたいのは当たり前です。だからこそご家庭には『学校にクレームを入れたりお子さんの前で先生の悪口を言うことは絶対に避けて下さい』としつこいほど念を押し、ご協力頂いたことがありました。
『塾では情操教育・躾教育はしない』これは私の持論です。しかし『勉強が苦手になってしまったが故の・・・』となれば話は別だと思うのです。たかが勉強ぐらいのことでキミのこれからの時間に暗雲が迫ることのないよう、お手伝いしたいと思います。